居抜き物件とは、前のテナントの内装・設備がそのまま残っている物件のこと。スケルトン(何もない状態)から工事するより初期費用を大幅に抑えられるため、個人の飲食店開業者に人気がある

ただし、1,000件以上の仲介をやってきて断言する。居抜き物件で失敗する人は、安さに飛びついて「なぜ前の店が撤退したか」を調べていない。そして造作譲渡費の相場を知らずにぼったくられている

造作譲渡費の真実 — 不動産屋的には価値ゼロ

居抜き物件の造作譲渡費について、不動産屋の本音を言う

中古の厨房設備や内装に、不動産的な資産価値はほぼゼロ。これが業界の常識。前テナントが「300万円で設備を入れたから200万円で」と言っても、5年使った中古設備の市場価値は数十万円がいいところ

理由は単純。中古の厨房設備は次の入居者の業態に合うとは限らない。居酒屋の設備がそのままカフェに使えるか?使えない。結局は撤去して新しい設備を入れるケースが多い。だから不動産屋的には「残置物」であって「資産」ではない

前テナントが造作譲渡費ゼロでも得をする理由

ここが多くの人が知らないポイント。前テナントにとっては、造作を残して退去するだけで原状回復費用を免れるメリットがある

原状回復(スケルトン戻し)の費用は坪5万〜10万円。15坪の物件なら75万〜150万円。造作譲渡費ゼロでも、前テナントは75万〜150万円の原状回復費用を払わなくて済む。つまり造作譲渡費ゼロでも前テナントは得をしている

この構造を理解していれば、造作譲渡費の交渉で強気に出られる。「前の方は原状回復費用が不要になるわけですから、造作譲渡費はゼロにしていただけませんか」と言えるかどうかで、数十万〜数百万円の差が出る

引渡し状況別比較表 — どの状態の物件が有利か

引渡し状況 内装工事費の目安 造作譲渡費 メリット デメリット
フルスケルトン 坪30万〜50万 なし 自由な設計が可能 工事費が最も高い。工期も長い
事務所仕様 坪20万〜40万 なし〜少額 電気・空調は使える 厨房設備・給排水は新設が必要
居抜き(同業態) 坪5万〜15万 0〜300万円 設備がそのまま使える。工期最短 造作譲渡費が高いと逆に割高
居抜き(異業態) 坪10万〜30万 0〜200万円 一部の設備は使える可能性 使えない設備の撤去費が発生

同業態の居抜きが最もコスパが良いのは間違いない。ただし造作譲渡費が適正かどうかを必ず確認すること。内装工事費と造作譲渡費の合計で比較しないと、「居抜きのほうが安い」は成り立たない

居抜き物件で失敗する人の3つの共通点

共通点1: 前テナントの撤退理由を調べない

前の店が潰れた場所で開業する。これ自体は問題ない。問題は「なぜ潰れたか」を知らずに出すこと

撤退理由には2種類ある

  • オーナー側の問題(経営力不足・資金ショート・体調不良・家庭の事情)→ 立地は問題ない可能性が高い
  • 立地・物件の問題(客が来ない・排水が悪い・騒音・近隣トラブル)→ 同じ問題が自分にも起きる

仲介会社に聞けば、前テナントの撤退理由はある程度教えてもらえる。聞かないのは論外。さらにGoogleマップの口コミで前テナントの評判を調べることもできる

共通点2: 設備の状態を確認しない

居抜き物件の設備は「中古品」。見た目はきれいでも中身が劣化しているケースが多い。内見で「きれいですね」と言って契約する人が本当に多いが、見た目と中身は別物

共通点3: 造作譲渡料の相場を知らない

前述の通り、不動産屋的には価値ゼロ。適正相場の考え方は「設備の残存価値(新品価格 × 残耐用年数/法定耐用年数)」で計算する。5年使った厨房設備を新品価格で請求されたら、それは高すぎる

内見チェックリスト16項目 — これを全部確認してから契約する

1,000件以上の仲介で使ってきた内見チェックリスト。居抜き物件の内見では最低限この16項目を確認する

物件基本情報(4項目)

  1. 前テナントの業態と撤退理由 — 仲介会社に必ず確認
  2. 引渡し条件 — 居抜きのまま? 一部撤去? 契約書に明記させる
  3. 残っている設備は「前テナント資産」か「貸主資産」か — これを確認しないと退去時に揉める。前テナントが設置した設備は造作譲渡の対象。貸主が設置した設備は物件の一部で、修繕義務は貸主にある
  4. 原状回復義務の範囲 — 居抜きで入っても退去時にスケルトン戻しを求められるケースがある。賃貸借契約の条項で必ず確認

厨房設備(6項目)

  1. 厨房設備の製造年と使用期間 — 銘板で確認。10年以上の設備は交換リスク大
  2. 冷蔵庫・冷凍庫の動作確認 — 電源を入れて温度が下がるか実際に確認。圧縮機の異音チェック
  3. ガスコンロ・オーブンの点火確認 — 全口点火して火力を確認。安全装置の動作も
  4. 食洗機の動作確認 — 実際に水を流して排水まで確認
  5. グリストラップの状態 — 蓋を開けて中を確認。清掃不足で詰まっていると修理に数十万円
  6. 排気ダクトの状態 — 油汚れ・劣化・臭いのチェック。ダクト清掃だけで10万〜20万円かかる場合も

建物設備(4項目)

  1. 空調設備の動作確認と製造年 — 業務用エアコンの交換は50万〜100万円。10年以上なら交換前提で予算を組む
  2. 給排水管の水漏れチェック — 全ての蛇口を開けて排水の流れを確認。老朽化で水漏れが起きると営業停止リスク
  3. 電気容量の確認 — 契約アンペア数とブレーカーの確認。前の業態と電力消費が異なると容量変更工事が必要(10万〜30万円)
  4. 壁・床・天井の劣化 — 壁のひび割れ、床の沈み、天井のシミ(雨漏りの痕跡)をチェック

コスト関連(2項目)

  1. 造作譲渡料の内訳明細 — 「一式○○万円」ではなく、設備ごとの金額明細を要求する。明細を出さない前テナントは要注意
  2. 追加工事が必要な箇所の見積もり — 内見後に内装業者を連れて再訪し、追加工事の概算を取る。この費用を造作譲渡費との合計で評価する

居抜きが「お得」になるケースとならないケース

お得になるケース

  • 前テナントと同業態(設備がそのまま使える)
  • 設備が新しい(5年以内)
  • 前テナントの撤退理由がオーナー個人の事情(立地に問題なし)
  • 造作譲渡料が適正(残存価値ベース)or ゼロで交渉成功

スケルトンの方がいいケース

  • 前テナントと業態が全く異なる(設備の大半が使えない)
  • 設備が古く交換が必要(結局工事費がかかる)
  • 内装の雰囲気が自分のブランドと合わない
  • 前テナントが同業態で撤退した「呪われた立地」— 立地に問題がある可能性大
  • 造作譲渡費が高額で、スケルトン+新設備のほうがトータルで安くなる

造作譲渡契約の注意点

造作譲渡は「前テナントとの契約」であり、「物件オーナーとの賃貸借契約」とは別物。以下を必ず確認する

  • 譲渡後の設備故障は誰の負担か — 通常は引渡し後は買い手(自分)の負担。だからこそ動作確認が重要
  • 引渡し時の設備リストを作成する — 何を譲り受けたかを明確にしないと、退去時に「これは前テナントのもの」「これは物件の備品」で揉める
  • 引渡し後に発覚した不具合の対応 — 契約書に「引渡し後○日以内に発覚した不具合は前テナント負担」の条項を入れることを交渉する

よくある質問

Q. 居抜き物件はどこで探せますか?

通常の不動産ポータルサイトに加えて、居抜き専門サイト(居抜き市場、店舗そのままオークション等)がある。ただし、良い居抜き物件は公開前に決まることが多い。信頼できる店舗専門の不動産会社とコネクションを構築し、非公開物件の情報を得ることが最も効率的

Q. 居抜き物件で追加工事費はどのくらい見込むべき?

業態にもよるが、最低でも造作譲渡料の30〜50%は追加工事費として見込んでおく。「居抜きだから安く済む」は甘い見積もり。設備の修理・交換、内装の一部変更、看板の変更等で想定以上にかかるケースが多い。内見後に内装業者を連れて再訪し、追加工事の概算を取ってから契約判断するのが鉄則

Q. 造作譲渡費の交渉はどうすればいい?

まず「不動産屋的には価値ゼロ」という事実を前提に、設備ごとの残存価値を計算する。前テナントに「この設備は○年使用で残存価値は○万円です」と根拠を示して交渉する。前テナントが急いでいる場合は「造作譲渡費ゼロで即日契約します」が最強の交渉カード

Q. 前テナント資産と貸主資産の見分け方は?

賃貸借契約書の「設備一覧」に貸主が提供する設備が記載されている。そこに記載のない設備は前テナントが設置したもの。契約書に設備一覧がない場合は、仲介会社を通じてオーナーに確認する。この確認を怠ると退去時に「エアコンはあなたが設置したものだから撤去してください」と言われるリスクがある

内見チェックリスト完全版 — 16項目をHTML形式で

内見時にスマホでこのページを開いて、1項目ずつ確認しながら進める。1つでも未確認のまま契約すると、後から数十万円の修理費が飛ぶ

  • 1. 前テナントの業態と撤退理由 — 仲介会社に必ず確認。立地の問題かオーナー個人の問題か
  • 2. 引渡し条件 — 居抜きのまま/一部撤去/スケルトン。契約書に明記されているか
  • 3. 残存設備は「前テナント資産」か「貸主資産」か — 退去時の撤去義務に直結する
  • 4. 原状回復義務の範囲 — 入居時の状態に戻す?スケルトン?契約書で確認
  • 5. 厨房設備の製造年・使用年数 — 銘板を確認。10年超は交換リスク大
  • 6. 冷蔵庫・冷凍庫の動作確認 — 電源入れて温度確認。圧縮機の異音チェック
  • 7. ガスコンロ・オーブンの点火確認 — 全口点火。安全装置の動作も
  • 8. 食洗機の動作確認 — 水を流して排水まで確認
  • 9. グリストラップの状態 — 蓋を開けて中を見る。清掃不足で詰まりは修理数十万円
  • 10. 排気ダクトの状態 — 油汚れ・劣化・臭い。清掃10万〜20万円
  • 11. 空調設備の動作確認と製造年 — 業務用エアコン交換は50万〜100万円
  • 12. 給排水管の水漏れチェック — 全蛇口を開けて排水確認。老朽化→営業停止リスク
  • 13. 電気容量の確認 — 契約アンペア・ブレーカー確認。容量変更工事10万〜30万円
  • 14. 壁・床・天井の劣化 — ひび割れ・沈み・シミ(雨漏り痕跡)チェック
  • 15. 造作譲渡料の内訳明細 — 「一式○○万円」は危険。設備ごとの金額を要求する
  • 16. 追加工事が必要な箇所の見積もり — 内見後に内装業者を連れて再訪。造作譲渡費+追加工事費の合計で判断する

居抜き物件の原状回復リスク計算 — 造作譲渡費 vs 原状回復費の比較

居抜き物件で最も見落とされるのが「退去時の原状回復リスク」。入居時は安く済んでも、退去時にスケルトン戻しを求められたら逆転する

15坪の飲食店で比較する

項目 居抜き入居(造作譲渡費あり) スケルトンから新設
入居時コスト 造作譲渡費150万+追加工事50万=200万円 内装工事費450万=450万円
退去時コスト(スケルトン戻し) 前テナント分+自分の追加分=150万円 自分の設備のみ=120万円
退去時コスト(居抜き譲渡成功) 0円+造作譲渡料収入100万=-100万円 0円+造作譲渡料収入150万=-150万円
最悪ケース合計(入居+スケルトン退去) 350万円 570万円
最良ケース合計(入居+居抜き退去) 100万円 300万円

居抜き入居は最悪でも最良でもスケルトンより安い。ただし「居抜きで入って、退去時にスケルトン戻し」が最も損するパターン。契約前に原状回復の範囲を必ず確認し、居抜き譲渡が認められるかどうかをオーナーと合意しておくこと

設備の耐用年数一覧表 — 何年使えるか、いつ壊れるか

設備 法定耐用年数 実務上の寿命 交換費用の目安 判断基準
業務用冷蔵庫 6年 8〜12年 30万〜80万円 圧縮機の異音・温度が下がりにくい
業務用冷凍庫 6年 8〜10年 40万〜100万円 霜が異常に付く・温度ムラ
製氷機 6年 7〜10年 15万〜40万円 製氷量の低下・異音
食洗機 6年 6〜8年 30万〜80万円 洗浄力低下・水漏れ
ガスコンロ(業務用) 8年 10〜15年 10万〜30万円 火力低下・点火不良
業務用エアコン 13〜15年 10〜15年 50万〜100万円 冷暖房効率の低下・異臭・水漏れ
排気ダクト 15年 10〜20年 清掃10万〜20万/交換30万〜80万円 油汚れ蓄積・排気効率低下
グリストラップ 15年 15〜20年 修理10万〜30万/交換30万〜50万円 詰まり・悪臭・腐食
給排水管 15年 20〜30年 部分修理5万〜20万/全面交換50万〜100万円 水漏れ・赤水・排水の遅れ

設備の製造年が法定耐用年数を超えている場合は、交換費用を追加コストとして計算する。造作譲渡費200万円の物件で、冷蔵庫(80万円)とエアコン(100万円)の交換が必要なら、実質コストは380万円。この計算をせずに「居抜きだから安い」と判断するのが典型的な失敗パターン

Before/After — 居抜き物件の選び方で初期費用が400万円変わる

知識なし(言い値で契約) 知識あり(交渉+査定) 差額
造作譲渡費 250万円(言い値) 80万円(残存価値ベースで交渉) 170万円
追加工事費 100万円(1社見積もり) 60万円(相見積もり3社) 40万円
設備修理費(入居後に発覚) 80万円(冷蔵庫+エアコン故障) 0円(内見で確認済み。故障設備は造作譲渡費に反映) 80万円
退去時の原状回復費 150万円(スケルトン戻し) 0円(居抜き譲渡成功。契約時に合意済み) 150万円
合計差額 440万円

よくある失敗パターン — 居抜き物件で損する人の特徴

  • 「安いから」だけで飛びつく — 安い理由がある。前テナントが潰れた立地、設備が老朽化、原状回復義務が重い。安さの裏にあるリスクを見ないと結局高くつく
  • 造作譲渡費の内訳を確認しない — 「一式200万円」で契約して、後から「この設備は使えない」と判明しても返金はない
  • 前テナント資産と貸主資産を区別しない — 退去時に「あのエアコンはあなたが撤去して」と言われて費用発生。入居時に設備リストを作らなかった代償
  • 内見を1回で済ませる — 1回目は自分で見る。2回目は内装業者を連れて行く。この2回目を省略すると、追加工事費の見積もりが取れず判断を誤る
  • 原状回復条項を読まない — 居抜きで入って、退去時にスケルトン戻しを求められる最悪パターン。契約書に書いてあるのに読んでいなかった人が8割

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